一度、隼を手放した。
理由はハッキリとしてたが
どれも言い訳ばかりだった。
増車、年齢、重量、パワー過多。
一般的に正しいが、
俺にとっては正しくなかった。
別のバイクに乗ったときに
気づいた違和感。
風の抜け具合、姿勢、エンジンの鼓動。
信号待ちで見るメータの位置、
ハンドルの角度、ニーグリップの感触。
夜、ガレージを見ると
あの大きなシルエットはない。
すべてが違ってた。
別のバイクも悪くはないが、
“それ”ではなかった。
そのとき、身体が理解した。
心は激しく後悔した。
俺が動くのに
時間はかからなかった。
再び、隼を手に入れた。
しかも、同じ1型隼を。
「 一緒に走りたい 」
それだけの理由で。
以前の隼は黒。
今回のは赤黒のツートン。
見た目は違うし、年式も違う。
が、ハンドルを握れば
懐かしさが込み上げ、
エンジン音を聞けば
心が躍りだした。
戻ってきた。
自分に帰ってきた。
もう一度、隼と向き合う。
そして今度は離さない。